(……道理でいつもと印象が違うと思ったらF65じゃんか。柚香のやつ、またおっぱいが大きくなったのか?)
シングルベッドが二つ並ぶ相部屋で、おれは妹のタンスを漁っていた。オ○ニーがしたくなるといつも、妹の下着を拝借するのが常だった。ショーツのにおいを嗅いだりブラジャーをち○こに巻きつけたりしながら射精すると、フェンタニル以上の快感を得られるからだ。
(早速、おかずにいただこう)
と、おれは下半身丸裸になってベッドに寝そべり、女子高生らしいフェミニンな下着に包まれてオ○ニーを開始した。新しいブラジャーはいつにも増してフル勃起を厚く覆い、ショーツは柚香の体臭を妄想させた。脱ぎたてならま○こ臭や汗のにおいを直に嗅げるのに。
「……ちょっと、何してんのよ!」
射精を何度目か我慢した時、いきなりドアが開いて柚香が入ってきた。
ショートヘアの体育会系。高校一年生ながらハンドボール部の副主将だ。おれとは対照的にアウトドア派で性格がポジティブである。
「柚香の下着でオ○ニーしようかと」
「やめてって前にも言ったじゃん。お兄ちゃんとはそういう関係になりたくないの」
「お尻枕で昼寝させてくれたり、混浴で洗いっこさせてくれたりする妹が言うセリフか」
「それはただのスキンシップ。買ったばかりの下着をお兄ちゃんの精子で汚されたくないだけだってば」
「ああ、なるほど。彼氏ができたのか」
「別に……そういうわけじゃないけど」
柚香が拗ねたように唇を尖らせ、相部屋のドアを後ろ手に閉めた。
「ところでいつF65になった? ブラジャーのタグを見てびっくりしたぞ」
「高校一年生は発育の真最中なの。成長ホルモンの分泌が盛んなんだってば」
「じゃあ将来はIカップかJカップだな。告白小説板に投稿すればファンができるぞ」
「告白小説板って何よ」
柚香が眉根を寄せた。
「おれみたいな恋愛底辺層の吹き溜まりだ。妄想小説と偽告白の混合物。サイト開設当初は告白小説板どころか素人画像投稿板もあって、毎日投稿が絶えなかったんだぞ。スレッドを立てれば翌日には十桁のレスが確実だったとか今じゃありえないだろう? た○くんと○○お姉さんの幼児語やり取りにはほっこりしたものだ。おれは『うさ♪』さんのファンだったけど、推定FカップかGカップのあんな美麗な巨乳は見たことがない。セルフフォトのアングルを考案したのも彼女だな」
「ますます意味わかんないだけど」
「何にせよ、おれはオ○ニーを続けるからな。お兄ぃが射精するところを見たければ見学してていいぞ」
「見るわけないでしょ!」
バタンっ、と力強くドアが閉められ、柚香が出ていった。
――三月十四日。おれは十八歳の誕生日を迎えて養護施設を出ることになった。特別な理由があれば二十歳まで滞在延長できるらしいが、おれには該当する理由がなかった。
大粒の涙を流して嗚咽する柚香を抱きしめた。相部屋で何年も一緒に過ごし、時に喧嘩し、時に悩みをうち明けあい、時にセックスの真似事をしたりした血の繋がらない妹。おれたちの絆は生涯消えるものじゃない。なぜなら親の虐待から救出された境遇が一緒なのだから。
「IカップかJカップになったらパイズリしてくれ」
「今でもできるもん」
「ああそうですか。一緒にお風呂に入った時は拒否ったくせに」
「恥ずかしいからに決まってるじゃん」
施設長のマザー・マリアが微笑んだ。
「柚香に会いたくなったらいつでもいらっしゃい。歓迎するわ」
「今度会う時は兄妹っていうか幼なじみっていうかセフレっぽい微妙な関係で」
……そう約束した二年後、柚香からめっきり連絡が途絶えた。たぶん、不幸な人生を埋め合わせてくれる彼氏に出逢ったのだろう。
おれは自分の幸せより柚香の幸せが叶ってくれれば満足だ。
なぜなら、相部屋の絆が消えることはないのだから。
妄想掌編『相部屋の絆』END